専門分野

  • 政治学(政治心理学/政治行動論/現代日本政治分析/実験政治学)

生成AIによる研究内容/関心のまとめ

野党をめぐる有権者の政治意識

 近年,日本政治は多党化する傾向が見られます.とりわけ,野党は2012年以降,分裂と統合を繰り返しています.あるいは,伝統的な主要野党である立憲民主党が凋落傾向にあり,それに変わって,国民民主党や参政党,あるいはれいわ新選組や日本保守党などが台頭しています.

 これまでの日本政治研究の多くは,自民党支持にほとんど焦点が当てられてきました.一方で,野党をめぐる有権者の意識や政治動向については必ずしも十分な学術的検証が進んでいるとは言い難いのが現状です.そこで,野党=敗者の側がどのようにして勝者たる政府の正統性を認めるのか(敗者の合意)に注目しながら,野党支持者にのみ焦点をあてて,この点を実証的に研究しています.

     

 それに付随する形で,野党第一党である立憲民主党に対する支持がなぜここまで低下しているのかについても興味を持って研究をしています.とりわけ,「悪夢のような民主党政権」の記憶や「左翼イメージ」が,現在の立憲民主党のパブリック・イメージにどの程度/どのように影響しているか,また投票選択の際にどのような効果を有するかについて,サーベイ実験などを利用して実証的に検討しています.

陰謀論が民主主義を揺るがすメカニズム

 近年,2021年の米国連邦議会襲撃事件や,新型コロナウイルスのパンデミックを経て,「陰謀論(conspiracy theory)」や「フェイクニュース」が世界的な脅威として認識されるようになりました.日本においても,「Qアノン」現象の波及や,選挙における「不正選挙」言説の流布など,決して対岸の火事ではありません.

 これまでの研究では,どのような人が陰謀論を信じるのかという「属性」の分析が中心でしたが,私は「なぜ人は陰謀論に惹かれるのか」「それは政治的態度にどう影響するのか」というメカニズムの解明に取り組んでいます.特に2022年に上梓した『陰謀論:民主主義を揺るがすメカニズム』(中公新書)では,日本独自の実証データに基づき,陰謀論受容の心理的・政治的背景を分析しました.

 最新では,ソーシャルメディア(SNS)の利用や伝統的メディア不信と陰謀論の受容の関係(秦 2025)や,アメリカにおける不正選挙陰謀論の受容(Hata and Ogura 2024)について,サーベイ実験を用いて検証しています.「普通の日本人」がなぜ,どのようにして「目覚めて」しまうのか.そのプロセスを実証的に明らかにすることで,分断を防ぐための処方箋を探っています.

「危機」が有権者の政治的判断に与える影響:「誤った責任帰属」と「党派性に動機づけられた推論」

 2011年の東日本大震災に続き,2020年からの新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックは,我々の社会と政治意識に巨大なインパクトを与えました.未曾有の危機において,人々は政府を信頼するのか,それとも疑念を深めるのか.

 私の最近の研究(Iseki and Hata 2025; Hata 2024)では,パンデミック下における「政府への高信頼」の政治的起源や,人々の「自粛行動」と党派性の関係について分析しています.特に,政府への責任帰属が野党や専門家へと選択的に転嫁されることで,逆説的に政府信頼が高止まりするメカニズムや,個人の自粛行動が政治的立場によってどう歪められるかを実証的に示しました.

 別の「危機」として,安全保障をめぐる日米同盟に関する世論の受け止め方についても関心を持って研究しています.アメリカ側が日本の防衛を約束するのか,それとも切り捨てようとするのかといった行動やシグナルが,日本の安全保障に関する世論にどのような影響を与えるかにも関心を持って研究を進めています(Hata et al., 2023

 危機は人々の意識を「結集」させる一方で,新たな「分断」も生み出します.このダイナミズムを,リスト実験などの手法を用いて精緻に描くことを試みています.

「否定的党派性」と民主主義の後退

 現在の日本政治において,特定の政党を「支持する」熱量よりも,特定の政党を「嫌う」感情――すなわち「否定的党派性(Negative Partisanship)」が,投票行動や政治的合意形成に強い影響を与えている可能性があります.

 現在進行中の科研費プロジェクト(基盤C)では,この「否定的党派性」が民主主義的規範をどのように後退させるのかについて研究を進めています.「支持政党がない」無党派層がマジョリティを占める日本において,人々を政治へと動員するのは「希望」ではなく「嫌悪」なのかもしれません.選挙における投票行動や,他者への寛容性が,この負の感情によってどう変容しているのかを解明することが,現在の主要な関心事の一つです.

政治学方法論と新たなデモクラシーの形

 因果推論を可能にする「サーベイ実験(Survey Experiment)」の手法開発と応用も継続して行っています.コンジョイント分析やヴィネット実験を駆使し,「世論」の深層にある本音や選好の構造をあぶり出すことを目指しています.

 また,現在の選挙制度(Electoral Democracy)の限界を乗り越えるための新たな統治のあり方として,「くじ引き民主主義(Lottocracy)」や「認識的民主主義(Epistocracy)」に対する市民の受容性についても,実験的なアプローチで検証を行っています(Yamaguchi, Hata, and Inoue 2024).

 上記以外でも,日本における(中央)官僚のリクルートメントに関する研究や,幼児期に見聞きした「スーパー戦隊」や「仮面ライダー」といったヒーロー像の違いが,大人になって以降の政治的態度(ポピュリズム態度や民主主義観)に与える影響についてもほそぼそと研究しています.